健康管理情報

神経症③ ~こころがもたらすからだの病気~

2005年1月号
更新)
こころがもたらすからだの病気

神経症 ③脅迫、解離・転換状態について

神経症の分類とその症状

神経症には次の5つの典型的な病型があり、それぞれ特徴があります。

  1. 不安・神経症的な抑うつ状態
  2. 恐怖状態
  3. 脅迫、解離・転換状態
  4. 環境反応
  5. 妄想状態

それぞれ独立した症状でありながら、混合して現れたり、移行し合うこともあります。また、身体疾患に合併することもあります。

今回は、 3.脅迫、解離・転換状態 を詳しく見てみましょう。

脅迫性障害

脅迫状態とは、脅迫性障害(従来の脅迫神経症)と呼ばれ、大丈夫だと思いながら万に一つの危険を恐れる気持ち(強迫観念)と、その危険を除いて不安を打ち消すための行動(脅迫行為)に悩む状態をいいます。

症状

恐れの対象は様々ですが、近年、汚れや細菌を恐れる不潔恐怖が増えています。その範囲は手や体から、食器や炊事用具、衣類や環境全体に及ぶこともあります。しかし、身の回りの全てを清潔にするのではなく、食器洗いには熱中しても部屋は汚れているといった、一見矛盾するようなケースが多く見られます。
汚れや細菌を恐れる不潔恐怖など、自分の恐怖の対象が目で見て確認できないと、「手は必ず3回洗う」というように自分の決め事を作り、実行することで安心を得ようとします。その行為を途中で邪魔されると不安に襲われます。

その他の症状
脅迫観念
  • 自分や他人を故意に傷つけてしまうのではないか。
  • 駅のホームやビルの屋上から飛び降りるのではないか。
  • キッチンの調味料や調理器具が決まった位置にないと気がすまない。
脅迫行為
  • シャワーを何時間も浴びる、家中を執拗に磨く。
  • 戸締り、コンセント、ガスの元栓を何度も確認する。
  • 部屋の出入りや椅子の立ち座りを何度も繰り返す。
  • 階段の段数を数える。
  • 必ず右足(あるいは左足)から歩き始めなければならない。
よく発症する年代

発症年齢の幅は広く、15歳~40歳が最も多いです。症状は年代によっても異なります。男女比はほぼ1:1です。

原因

原因は不明ですが、脳内でのセロトニンが関与するという説が主流です。そのほか、本人の素因や性格、受験、結婚、出産、育児、親子関係、友人関係といった、様々なストレスが関与する場合があります。

治療

SSRIのひとつであるフルボキサミン(脅迫性障害に対し、日本で唯一認証されている薬)による薬物療法と、危険を恐れる気持ちが生じるパターンを説明するモデルを作り、他の考え方ができるような工夫をしていく認知行動療法があります。また、日本で開発された森田療法も有効です。

生活上のアドバイス

初期は本人が全く話さないことがあり、発見するのが困難です。脅迫症状が進むと、家族を巻き込み、自らの脅迫行為を監視させたり、代行行為をさせるといった症状が見られます。手洗いやシャワーの時間が長すぎたり、頻繁に確認行動をしている場合は、早めに専門医を受診するとよいです。

解離性(転換性)障害
A. 解離性障害

人間の心は一つのまとまりを持つとともに連続性を持っています。つまり、意識することや考えることには一つのまとまりがあり、それが自分らしさとなります。 そして、子供の頃の自分と大人の自分を比較すると、両者そこには成長がありますが、その両者は連続していてどちらも自分であるという認識(感覚)を持ちます。このように認識(感覚)が連続していることを同一性といいます。
しかし、こうしたまとまりや連続性に支障をきたすと、記憶が途切れて「空白の時間」が生じます。この間の行動は、比較的まとまっていて周囲の人には解離状態にあることに気付かれないことが多いです。

  1. 症状
    • 解離性健忘
      記憶が途切れていて、その間のことを思い出せない。
    • 解離性昏迷
      周囲の呼びかけや刺激に反応しない、不相応な反応をする。
    • 解離性遁走
      日常生活の場から突然放浪する。
  2. よく発症する年代
    幼い子供から成人まで、いずれの年代にも出現します。
  3. 原因
    精神的に外傷を受けた場合、特に子供の頃にネグレクトを含む心理的、身体的、性的虐待を受けた体験が原因となることがあります。
  4. 治療
    精神療法が中心となり、補助的に薬物療法、催眠療法、集団精神療法を行ないます。
  5. 生活上のアドバイス
    ~家族の対処法~
    精解離状態にあると、いつもと全く違った態度や言葉遣いになり、また、回復した後は解離状態のときの出来事を覚えていません。そのため、周りの人はからかわれているのかと思ってしまいますが、患者さんを責めたりせずに病気の理解を深めて協力することが大切です。
B. 転換性障害

からだには問題がないのに、随意運動機能(自分の意志でその動きをコントロールできる運動機能)や感覚機能(五感)に異常をきたす障害です。突然、立てなくなったり声を出すことが出来なくなったりします。

  1. 症状
    随意運動機能の症状として、手足が動かなくなる麻痺、部分的に力が入らなくなる部分的脱力、声が出ない、飲み込みが出来ないなどがあります。 感覚機能の症状として、触っている感じがしなくなる、痛みを感じない、物が二重に見える、目が見えなくなる、耳が聞こえなくなるなどがあります。また、けいれんや引きつけを起こすこともあります。
  2. よく発症する年代
    小児後期(10歳以上)から成人期に発症し、男性よりも女性に多いといわれます。
  3. 原因
    こころの葛藤やストレスといった心理的な要因が関連していると考えられます。
  4. 治療
    根本的に治療できる薬はなく、こころの緊張感をやわらげるために抗不安薬を補助的に使うことがあります。
  5. 生活上のアドバイス
    ~家族の対処法~
    初期は周囲の人もびっくりして心配しますが、病気が長引くと「甘えているだけだ」「わざとやっているのではないか」と批判的な態度になることがあります。それが患者にとって新たなストレス源となり、病気を長引かせてしまうことになりかねないので、治療には時間をかけて協力していくことが大切です。

来月のテーマは、「神経症④ ~こころがもたらすからだの病気~」です。