学会参加報告 <日本健康教育学会><日本動脈硬化学会>
2023.10.24日本健康教育学会・日本動脈硬化学会 学術集会に参加いたしました
~「日本健康教育学会」「日本動脈硬化学会」年次学術大会より~
当協会では、生活習慣病や健康管理に関連する学会に加盟し、最新の学術情報を収集しています。今回は、2023年7月22~23日に全国町村会館(東京都)で開催されました「第31回 日本健康教育学会学術大会」およびに「第55回日本動脈硬化学会総会学術集会」2023年7~8月(オンデマンド配信期間を含む)に開催されました報告の中から現在、どのようなテーマで研究が行われているのか、一部内容を抜粋しご報告させて頂きます。
学会名 | 日本健康教育学会学会 |
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報告内容 |
食の選択行動は、商品配置に影響される?職員の健康意識(ヘルスリテラシー)向上のために院内コンビニプロジェクトが行われた。健康意識の向上のためには、声かけ運動やe-ラーニングなどのツールを用いた直接的なアプローチなどがあるが、毎日行われる食の選択行動に対して、「食環境」を整えることの有効性について発表が行われた。 このプロジェクトは、『目線に入りやすい商品棚の商品を選ぶことが多い』という点に着目したものである。行動心理学の側面から、手に取りやすい位置へ無糖や減塩など健康に配慮した商品を配置する、加えてポップを用いて注意喚起や健康情報の提供が行われた。その結果、選択の自由度を確保しながらも、自然と健康的な商品を手に取りやすくなり、職員の健康意識向上につながり食習慣を良い方向に変化した。その他、おにぎりなど単品購入者も多いことから不足しがちな乳製品(ヨーグルトや乳飲料など)や果物を加えたセット商品を提示したことで、セット商品を選択し購入した割合が増えた。 つまり、不足しがちな栄養素を組み合わせ提示するだけで、自然と職員の食の種類が広がるという結果となったことがわかった。すなわち、商品の配置などの食環境整備は、健康意識の向上につながることが示唆された。 参加型料理教室は、被災者のコミュニティづくりやQOLを高める?!2011年に発生した東日本大震災後、10月か公益財団法人と東北3県(岩手・宮城・福島)の行政や住民組織と共同で行われている復興支援のプロジェクト「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」の8年半にわたる実績報告と今度の展開について発表が行われた。このプロジェクトは、参加型料理教室を通して「みんなで食べる食事は楽しく、おいしく、安心できるという生活感覚の再発見」や「震災による孤立化を予防し、人とのつながりの回復」を目的としている。 地域復興というと支援者主体のイメージが強いが、あくまでも被災者自身が主体となれるように、支援団体は、場の提供や料理教室という体験という人とのつながりを持つためのきっかけとして、安全面や衛生面での配慮した場作りに注力した。震災によって仮設住宅などへの移住により、元々あった地域のつながりが薄れて、新たな隣人とのコミュニティを再度形成することへの難しさや、それに伴う孤立感などを経験していることが課題として挙げられていた。 料理教室では、コミュニティづくりの場の提供の他、被災者が中心となり仮設住宅の狭い台所や調理に不慣れな人でも作れるような再現性の高い被災者に寄り添ったレシピ作成を行った。栄養面を全面には出さずに、環境が変わっても料理をすることや食べることを楽しむ感覚や、自宅でも再現できるかが重要であると考え進められ、地域色のある料理や食材なども盛り込み、その他、料理教室時に役立つノウハウや安全衛生面の注意点を加えたレシピ集という1つのツールが出来上がった。 結果として、支援者の声掛けによって始まった料理教室が少しずつ被災者同士のつながりを作ることができ、食事をおいしく楽しむことで心の安定性へとつながりQOLの向上につながったと考えられる。現在では、全国の自治体などが運営する食生活改善委員や教育機関などに配布し、他地域においても、もしもの事態が起きた際に復興に活用できるように普及活動が進められている。 |
学会名 | 日本動脈硬化学会 総会学術集会 |
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報告内容 |
HDLコレステロールの著しい増加は動脈硬化のリスクに?!HDLと動脈硬化疾患の疫学研究とその応用的発展について発表が行われた。追跡研究を15年行った結果より、HDLコレステロールが高い群と比較し、低い群では冠動脈疾患及び、ラクナ梗塞のリスクを上昇させることが示されている。HDLコレステローのみ低値では冠動脈疾患のリスクは上昇せず、総コレステロールや中性脂肪も併用して高いことによってリスクを上昇させることがわかっている。 既存のデータではHDLコレステロールが高い場合は冠動脈疾患のリスクは低く、HDLコレステロールは動脈硬化の予防因子だと考えられていた。しかし、著しく高い場合は動脈硬化・心血管疾患のリスクを上昇させることが大規模疫学研究で明らかになった。動脈硬化性心血管疾患による死亡数は、特にHDLコレステロールが著しく高い飲酒者で多いことがわかった。HDL コレステロールの量ではなく、HDL機能低下が動脈硬化性疾患のリスクの上昇が関連することが研究で明らかになっている。このことからHDLの量は動脈硬化性疾患の危険因子というよりもそのマーカーである可能性が示唆されている。 動脈硬化の透過が可能に?!/納豆が動脈硬化に与える影響とは近赤外線蛍光タンパク質iRFPを用いた動脈硬化の透過と、納豆による動脈硬化の抑制効果の解明について発表が行われた。マウスを用いた実験をする場合、解剖し動脈硬化部位を染色するのが一般的だが、体内を透過する赤外線を用いることで動脈硬化部位にマクロファージの蓄積部分を透過することが可能であり、解剖をしなくても動脈硬化部位などを見ることが可能となった。 また、納豆に含まれるビタミンK2は動脈硬化を抑制する働きがあることは以前から発表されているが、なぜ納豆が動脈硬化に効果的なのかメカニズムまでは不明であった。高エネルギー食に納豆を合わせて食べることで、病変部が良くなるのではないかという仮説を立て検証が行われた。 高エネルギーのみと高エネルギー食にビタミンK2の多く含まれる納豆、普通の納豆、ビタミンK2が少ない納豆を用いり実験を行った。その結果、納豆が含まれるどの食事を摂っても、動脈硬化病変部位が減少することがわかった。腸内細菌の変化について比較すると、納豆を食べることで腸内の種の多様性が増加することがわかった。特に腸内の納豆菌がビタミンK2の高い納豆と普通の納豆で顕著な増加がみられた。さらに、マクロファージに納豆菌を反応させた結果、炎症性サイトカインの減少がみられた。 これらの結果より、高エネルギー食に納豆を加えることで、ビタミンKの作用により腸内細菌の多様性が見受けられること、そして、マクロファージなどのへの炎症抑制作用が起こり、動脈硬化の低減につながったと考えられる。 動脈硬化と骨粗しょう症の関係画像検査にて、椎体骨折とともに動脈硬化像が写っていることは以前からよく指摘されていたが、これが加齢に伴い同時に起こるものなのか、椎体骨折が起こっている方に多いのかは不明であった。ビタミンD不足・欠乏により骨からCaが流出し、入る必要のない血管にCaが入ることで動脈硬化を引き起こすCaパラドックスは、加齢に伴い起きるものだとされていた。だが、他に何かこれに関わる因子はないかと考えられてきた。 今回の心血管疾患の発症リスクを高める研究にて、糖尿病や高血圧などと同程度で、骨粗しょう症患者にもリスクがあるとの結果がでた。さらに、心血管疾患患者が大腿骨近位部骨折を起こすリスクが高いことが判明した。 骨粗しょう症と心血管疾患はビタミンD不足・欠乏および糖尿病や加齢などが関係しているのは明らかである。特に糖尿病における酸化ストレスの上昇は動脈硬化を引き起こすとともに、骨に存在するコラーゲンを劣化させ、骨粗しょう症をきたすことがわかった。従来、骨粗しょう症は性ホルモンを失うことで骨形成が追い付かず、骨がもろくなると考えられていた。しかし、加齢や糖尿病に伴い酸化ストレスが上がることによっても、骨に存在するコラーゲンを劣化させることがわかった。つまり、動脈硬化と同様に、酸化ストレスの増加は骨のダメージを大きくするため、酸化ストレスの低減が健康維持には必要不可欠である。 |