未来へつなぐ健康対談

アスリートと考える健康管理 Vol.1
中西哲生 × 健康

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会では健康社会の実現に向け日々さまざまな活動を行っております。皆様の病気予防・健康管理への意識・興味を高めていただくために、今回さまざまな分野のアスリートの方々と健康管理について考える対談をシリーズ化して皆様にお届けすることとなりました。
第1弾といたしまして元プロサッカー選手で、現在はスポーツジャーナリストやパーソナルコーチとしてご活躍されている 中西 哲生さんをお招きして
「アスリートと考える健康管理 Vol.1」をテーマに対談を行いました。

中西哲生

中西哲生

中西哲生

1969年9月8日生まれ。愛知県名古屋市出身の元プロサッカー選手。
現役時代は名古屋グランパスエイト(現:名古屋グランパス)川崎フロンターレで活躍。
引退後はスポーツジャーナリストとしてテレビやラジオで活躍。
現在は、サッカー選手のみならず多くのスポーツ選手、ピアニストなどのパーソナルコーチとしても活躍中。

profile
佐野虎

佐野虎

佐野虎

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 理事長
『健康社会の実現』のために、予防医学・健康管理の知識と意識の普及活動を行う団体。
官庁・自治体・企業 などと連携した『健康セミナー』の実施、小学校と連携した『食育』活動にも注力。
正しい健康知識を普及する人材、『健康管理士』 『文部科学省後援 健康管理能力検定』の認定も行う。

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“頭脳派・理論派 中西哲生“と健康管理
~時間遺伝子や体内リズムと健康の関係~

佐野:「さまざまなマスメディアでご活躍されている中西さんを拝見していると、頭脳派・理論派というイメージがあります。そんな中西さんですが健康管理に関してどのようなことを重要視していらっしゃいますか。」

中西:「僕が重要視しているのは、月と太陽の動きです。食事に関して言えば月の満ち欠けに合わせて食べる量をコントロールしています。例えば、上弦から満月に近づいていく時に体内の水分量は増えると言われているので、水分を摂り過ぎない、食事を食べ過ぎない(野菜とタンパク質多めの食事にする)、早く寝る、この3つを徹底しています。一方で、下弦から新月に向かっていく時は体内の水分量が減ると言われているので、水分をしっかり摂るだけでなく、食べたいものは我慢せず食べるようにしています。この考えを取り入れるようになってから、体内の水分調節や体重コントロールが上手く出来るようになりました。」

佐野:「なるほど、天体のリズムに合わせた食事・水分コントロールというのは非常に興味深いお話ですね。早寝早起きに関しては私の場合、歳を取ったことで目覚めが早くなってきたのかと思うところもあるのですが(笑)」

中西:「とにかく万物の摂理に逆らわず、自然に寄り添った生活習慣を取り入れることが大事だと思っています。」

佐野:「中西さんが実践されている健康管理法は、協会で取り組んでいる健康リズム・生活リズムによる健康管理という考え方に通じるものがありますね。健康管理に関する取り組みは現役時代の頃から強く意識されていたのですか?」

中西:「現役の頃はそこまで意識していませんでした。健康について独自に学ぶ機会は多かったのですが、そこに関しては反省すべきポイントです。ただ基礎知識として朝日を浴びると体内時計がリセットされることは知っていたので、遠征が続いて体内時計が乱れそうな時は日の出と共に起きることを実践していました。その後専門家から時間遺伝子の話を伺って僕が現役時代にやってきたことは正しかったのだと確信が持てました。常に最善のコンディションで生活したいという考えは現役時代から変わっていません。」

佐野:「現役時代に無意識に実践していたことが正しいということを、引退後に確認することが出来たのですね。なぜそこまでストイックに学ぼうと思われたのでしょうか?」

中西:「実は、サッカー選手としては大成功した選手ではありませんでした。名古屋グランパス時代(1992ー1996年)はベンチに座っていましたし、川崎フロンターレ(1997ー2000年)ではキャプテンを務めたものの当時チームは2部という状況でした。日本代表にも一度も選ばれていません。常にどうやったら試合に出られるか、より質の高いパフォーマンスが出来るかということにフォーカスしていました。名古屋グランパス時代、幸運なことにアーセン・ヴェンゲルが指揮をとっていた時に選手としてプレーしていました。その時に「見えない時間を大切にしなさい。」とよく言っていたんです。サッカーの練習以外の時間をどう過ごすのか。いいパフォーマンスをするためにはどうしたら良いのかということをずっと考えていました。」

現役プロサッカー選手としての健康管理
見えない時間(練習時間以外)の管理方法 食事や睡眠

佐野:「チームに管理されている時間も大事ですが、自分で管理する時間の過ごし方のほうがプロスポーツ選手としてはより重要になってくるのですね。見えない時間の過ごし方は選手寿命などにも影響しそうですね。見えない時間の過ごし方の具体的なお話も伺えますか?」

中西:「僕は、いいパフォーマンスをするために食事の管理と休息を徹底していました。当時クラブハウスで食事が出るシステムはなかったので、自分でコントロールしなければいけません。ただ有難いことにグランパス時代実家から通っていたので、独自に学んだ栄養学の知識や食事メニューを母に渡して作ってもらっていました。脂質に関して言えば、牛肉・豚肉・鶏肉・カモ肉・羊肉・魚のように融点の順位をつけています。内臓が疲れているときはなるべく融点の低いお肉を食べる。たまに牛肉を欲する時もありますが、内臓が疲れているなと思ったら豚肉や鶏肉に変えて調整します。一番シビアになるのは春先の合宿です。1日2回ハードな練習をするのですが、合宿中はタンパク質はお肉から摂取しません。融点が高い牛肉や豚肉を食べると消化に時間がかかりますから。消化に血液を持っていかれるより体の回復にエネルギーを使いたかったので、タンパク質は消化のいい大豆類や魚から摂っていました。」

佐野:「やはり現役時代の健康管理はかなり徹底していますね!サッカーはとても運動量の多いスポーツなので、そこまでしないと選手生命を延ばすのは難しいのでしょうね。」

スポーツジャーナリストとしての健康管理
~ストレスの対処法~

佐野:「一方で、サッカー選手を引退してからの食生活に変化はありましたか?」

中西:「今は週に2回ほど食べない時間を作っています。時間で言うとだいたい12時間ないしは18時間。前回食べたものをしっかり消化させることで栄養素を全て使い切れる体になるからです。胃の中に食べ物が残った状態でまた食べると、どんどんカスが溜まっていく感覚があるんです。食べない時の方が脳の動きもよくなりますし、仕事のクオリティも高くなる気がします。仕事上声を使うことが多いのですが、食べると声がにごる感覚があるんです。以前朝のラジオ番組を担当していましたが、第一声が「おはようございます」なんですね。たった一言ですが元気がないように言うのか、あるいは明るく快活に言うのとでは相手の受け取り方も変わります。特にラジオは顔が見えないので言葉にエネルギーを乗せるための工夫は色々としていました。あと、脳腸相関と言って脳と腸は密接な関わりがあるので、食べたいものを脳に聞くだけでなく腸にも聞くようにしています。まぁ答えてくれるわけではないですけどね(笑)」

佐野:「私も研修や講演会を担当する事が多いのですが、中西さん同様、講演前は食べません。人前で話すような時には交感神経を優位に働かせることを強く意識しています。中西さんは試合後に交感神経が優位になって眠れないなどの悩みはあったのでしょうか?」

中西:「睡眠の悩みは1番多いですね。ナイターの試合で言うと、試合終了後部屋に戻ってくるのがだいたい22時で、晩ご飯を食べ終わるのが24時。消化をしっかりしてから寝たいので食後3時間は起きています。そうすると必然的に寝るのは朝方3時過ぎということになります。通常の練習で言えば昼間に一度昼寝をしたりしていました。とにかく無理に寝ようとはしない、起床時間をそろえる、この二つを重要視していました。」

佐野:「まさに体内リズムですよね。寝る時間がバラバラになったとしても、起きる時間を揃えて朝日をしっかり浴びれば、体内時計はリセットされますからね。」

中西:「おっしゃる通りです。ただ最近は朝日が昇る前に起きますが(笑)必ず毎朝目が覚めた瞬間に電気を付けています。時間遺伝子をリセットするために意識的に明るい状態を作るようにしていますね。あとは夜10時~深夜2時までの間は体の補修が行われるので、この時間はしっかり睡眠を取るように心がけています。」

佐野:「成長ホルモンですね。大人になると全身の細胞のメンテナンスや新陳代謝を促してくれますからね。ノンレム睡眠時(深い眠り)に多く分泌されるので、この時間帯はしっかり休息を取りたいですよね、いつまでも若々しくいたいですし(笑)メンタル面のお話も伺えればと思うのですが、やはり現役時代は大きなストレスがかかっていましたか?」

中西:「それは大変でしたね。いつ出場出来るか分からない中で準備をしないといけないですから。場合によっては2軍戦含め2日連続で試合に出場することもあったので、その分準備に時間がかかります。そこに移動が重なったりするのでとても大きなストレスがかかっていました。今はメディアに出演できる環境が整っているので非常に有難いですね。感謝の気持ちでいっぱいです。時には厳しい指摘もありましたが、どんな事でもまずは受け入れた上で取捨選択していくことが大切だと思いました。」

佐野:「我々協会でも共有したい考えですね!生き方というものをきちんと考えて過ごしていらっしゃるのが分かります。」

中西:「僕の仕事は基本的に一発勝負の世界です。一回のパフォーマンスで結果を出さなければいけないので、常に200%のエネルギーで仕事をすべきだと思っています。ひとつひとつの仕事に感謝をし大切にやらせて頂くことが重要ですね。」

佐野:「おっしゃる通りですね。我々協会も様々な企業様・団体様から講演等の仕事の依頼が来ます。依頼者様の満足度が高くなければ次の依頼は来ませんので。我々もまたご依頼頂ける喜びを噛みしめながら大切に仕事をしています。」

久保建英などのパーソナルコーチとしての健康管理
~呼吸と姿勢(バランス)の重要性~

中西:「そうですよね。僕はパーソナルコーチを始めて11年目なのですが、全く同じ考えです。選手から一緒に練習をしたいと言われない限りこちらから声をかけることはないので、一回にかける想いや熱意はやはり大きいです。久保建英選手など数々のトップアスリートのコーチをマンツーマンでやっていますが、毎回オファーが来ると嬉しいですね。その時いつも心がけているのが、選手自身がポジティブな状態で練習をすること。つまり教えるというスタンスではなく、教わりたい・学びたいという能動的な姿勢で来てくれることが僕の理想です。そういう状態を作れると、伝えたいことが浸透しやすいんです。」

佐野:「教えてもらう側の心づもりも大事だし、教える側は学びの環境を作ることも大切なのですね。」

中西:「例えば小学生へ指導するときは、久保建英選手がやっている練習ですと言うと全員僕の言うこと聞きますね(笑)」

佐野:「確かに、みんな久保選手になれると思いますもんね!」

中西:「ここで1つポイントがあります。それは出来そうで出来ない練習をさせる事です。僕と久保選手は当然出来るけど本人たちは出来ない。そこで僕から1つヒントを出すと出来そうになる。さらに考えさせるヒントを与えると出来る一歩手前まで近づく。このように絶えずコップを上向きにさせる事が重要ですね。あとは成功体験の言語化が再現性に繋がるんです。子供たちにもなぜ出来たのか、出来ないのか常に言葉にしてもらっています。成功した時の記憶をリマインドする。それをきちんと理解出来れば何の問題もないと思います。」

佐野:「ちょっと頑張れば出来るというのが、ポイントなのでしょうね。」

中西:「そこが1番大事です。プロを見ても完璧な選手はいないので向上心は大切ですよね。僕は小学校五年生の時から久保建英選手を指導していますが、久保選手は努力の天才です。当時から左足はスーパーでしたが右足に関しては本人の努力の賜物ですから。人間の体は左右差があるので、なるべく左右差を無くすというのが僕のテーマです。例えば利き足で言うと、横断歩道や階段を登る時に必ず得意な足が出てしまうんです。トータルで考えた時に右と左で歩数に差が出てきます。なので、普段の生活の中であえて逆足から歩き始めるなどの工夫はしていますね。左右差がなくなると体のバランスも良くなるので。」

佐野:「体だけでなく考え方のバランスも良くなりそうですね。今日から協会職員全員に逆足を意識しなさいと伝えようかな。」

中西:「毎日言わないと難しいですよ、それにやるかやらないかは本人次第ですから(笑)」

佐野:「実体験ほど説得力のあるものは無いですからね。理屈を言うことはすごく簡単ですが、実績が伴っていなければ説得力も出ないですよね。」

中西:「はい。僕は常に自分自身にプレッシャーをかけています。普段の生活の中でバランスよくご飯を食べる、早く寝る、きちんと歩くなど常に最高のコンディションでいられるよう意識していますね。」

佐野:「サッカー選手以外の方も、指導されているんですか?」

中西:「はい。今までラグビー、アメフト、フィギュアスケート、ゴルフの選手を指導してきましたが、最近だとピアニストの方も教えています。どの競技もベースは同じで姿勢と呼吸が重要です。例えば座った状態で言うと浅めに腰かけた方がいい。地面に対して足が90度になった状態で座ると背筋がピンと伸びて姿勢が良くなります。ポイントはひざが内側に入らないようにする事と、膝下が地面に対して垂直になるように意識をする事。難度の高さで言うとペットボトルを頭上に乗せて体を左右に動かすという方法もあります。ピアニストの方は、頭に本を乗せて弾いてもらっています。」

佐野:「今教えていただいたことを実際にやってみると、正しく体のバランスを保つのがとても難しい事だということが良く分かりました。」

中西:「歩き方のポイントは、股関節から足だと思わずに胸から足だと思って歩くと綺麗になります。背中が使えていない人が多いですよね。骨がいいポジションに入っていないと内臓も適正の位置にいかないので目線が下がります。選手にはいつもジャンプ出来る姿勢が一番いいと教えています。」

佐野:「他にも日常生活で意識的に注意していることはありますか?」

中西:「呼吸は1番大事ですよね。1日に2万回呼吸していますから。呼吸はいい姿勢にならないと深い呼吸は出来ません。例えば先ほど言った上を向くというのはオススメです。上を向いていると鼻呼吸がしやすくなるので、ゆったりとした深い呼吸になります。普段の生活の中でトレーニングになる事が沢山ありますから。座っている時も立っている時も歩いている時も全部トレーニングになるので、出来ることから少しずつトライしていくと良いと思いますよ。」

佐野:「小さな事の積み重ねが、10年20年後の健康状態に繋がり長寿や老化防止を実現しますよね。体系的な知識を持ち、健康意識を高めて日常生活を送ることが大切ですね。
中西さんとの対談で再認識することが出来ました。本日はありがとうございました。」

中西:「ありがとうございました。」

~まとめ~

現役時代から頭脳派として知られている中西哲生さん。やはり現役時代から健康管理をきちんと意識されていたことがよくわかりました。
今の知識が現役時代からあればまた少し変わった側面があったのかもしれませんが、引退後にも学ぶ姿勢を忘れず、常に最後と思って仕事に向き合う姿勢は全てに通じることだと感じました。
体系的な健康管理を学ぶこと、身に着けることは一生大切であることを改めて痛感しました。

次回は、シドニーオリンピック水泳400mメドレーリレー銅メダリストで、現在はスポーツコメンテーター・タレントとして活躍されている 田中雅美さん をお招きして対談を行います。

コーディネーター・文責 / 和田奈美佳

コーディネーター・文責 / 和田奈美佳

フリーキャスター。
健康管理士、健康管理能力検定1級、日本成人病予防協会認定講師。