未来へつなぐ健康対談

アスリートと考える健康管理 Vol.4
池谷幸雄 × 健康

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会では健康社会の実現に向け日々さまざまな活動を行っております。皆様の病気予防・健康管理への意識・興味を高めていただくために、今回さまざまな分野のアスリートの方々と健康管理について考える対談をシリーズ化して皆様にお届けすることとなりました。



第4弾は、ソウルオリンピック団体・個人床で銅メダルを獲得、バルセロナオリンピックでは団体で銅メダル、個人床で銀メダルを獲得され、現在はテレビ、ラジオ、体操コメンテーターなど幅広い分野でご活躍中の池谷幸雄さんをお招きして「アスリートと考える健康管理 Vol.4」をテーマに対談を行いました。


池谷幸雄

池谷幸雄

池谷幸雄

1970年9月26日生まれ、東京都出身の元体操オリンピックメダリスト。

4歳のころから体操を始め、清風中学校・高校で才能が開花し1988年ソウル五輪では団体総合3位、個人総合8位、種目別ゆか3位、種目別跳馬7位、またバルセロナ五輪では団体総合3位、種目別ゆか2位、種目別つり輪7位と2大会連続メダル獲得で輝かしい成績を残す。

現在はタレントとしてCM、バラエティー、キャスターなどこなす他、2001年に設立した「池谷幸雄体操倶楽部」で14校の拠点を持ち、常時1200人の子供たちの指導、オリンピックを目指す選手の育成も行う。
スポーツ振興や子供の教育問題にも取り組み社会貢献活動も行う。
YouTubeでの自宅で簡単トレーニング「池谷幸雄体操倶楽部」も好評。

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佐野虎

佐野虎

佐野虎

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 理事長
『健康社会の実現』のために、予防医学・健康管理の知識と意識の普及活動を行う団体。
官庁・自治体・企業 などと連携した『健康セミナー』の実施、小学校と連携した『食育』活動にも注力。
正しい健康知識を普及する人材、『健康管理士』 『文部科学省後援 健康管理能力検定』の認定も行う。

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一世を風靡したオリンピックメダリスト池谷幸雄の現役時代

佐野:「池谷さん、本日はどうぞよろしくお願い致します。現役時代のご活躍テレビを通して拝見しておりましたが、オリンピックでメダルを獲得された時は一世を風靡しましたよね。」

池谷:「そうですね。1988年ソウルオリンピックは清風高等学校の同級生である西川大輔くんと一緒に行ったのですが、正直メダルは期待されていませんでした。前年の世界選手権は4位でしたし、高校生でメダルを獲るなんて難しいと思われていたようですが、結果的に団体総合で銅メダル、個人種目別ゆかでは銅メダルを獲得したので大騒ぎになりました(笑)」

佐野:「オリンピックに行く前と、帰国した後の注目度の違いに驚いたのではないでしょうか?」

池谷:「そうですね。オリンピック前はお見送りに来てくれる方もいないですし、空港も静まり返っていました。それが高校生コンビがメダルを獲得したので、帰国後中高生の若いファンの方たちが沢山空港まで来てくれて大パニックになったんです。 ただ当時、オリンピック選手に会いに来る文化が根付いておらず規制線なども全くありませんでした。警備員の後ろをついて移動するのですが、体を触られたり髪の毛を引っ張られたり、もみくちゃにされた記憶がありますね。恐らくそれが原因で規制線が出来たんじゃないかなと思っています(笑)」

佐野:「それは、ある意味貴重な経験でしたね。」

池谷:「当時、オリンピックは経験値のある大学生や社会人が選出されることが多く、僕らのようなジュニアが日本代表に選ばれることはなかったんですよね。それが高校生含む若い世代でもメダルを獲得出来る事が分かり、世間の見方が変わりました。その後1992年バルセロナオリンピックでは水泳の岩崎恭子さんが14歳で金メダル、柔道では谷亮子さんが16歳で銀メダルを獲得され、若い世代の活躍が目立つようになりましたね。」

佐野:「まさに時代をつくってこられたのですね。そんな現役時代、自己管理には気を付けていらっしゃいましたか?」

池谷:「食事に関していえば、僕らの時代はわりと適当でしたね(笑)特に僕は野菜が嫌いで、その代わりにビタミン剤を飲まないといけないのですが、その判断も自分で行っていたので自己管理の重要性を感じました。今でこそ強化選手は栄養管理などを徹底していますが、僕たちは合宿であっても練習場付近にあるビジネスホテルに宿泊して、一般のお客さんと同じモーニングを食べるんですよ。夜も近くにあるお店に食べに行っていたので食事に関しては何も考えていませんでしたね。
余談になりますが、ナショナル合宿で言うと当時僕らは高校1年生で年下だったので朝のモーニングコールをやるんですよ。一部屋ずつ「起床です、お願いします。」って言いながら(笑)
練習施設もナショナルスポーツセンターのような集中して競技に取り組めるところがなかったので、体操競技に力を入れている他大学まで行きましたね。
体のケアに関しては基本的に自分で行いますが、有難いことに日体大の一学年上の先輩が体操競技部の中にトレーナー部を作ってくれたんです。大学4年生のバルセロナオリンピックまで現役生活を続けられたのは、その方のお陰ですね。」

佐野:「アスリートにとって食事や健康管理の大切さが当たり前になったのはここ最近ですよね。そのような過酷な環境に身を置きながらトップアスリートとして結果を残されていたのは相当大変なことですよね。
様々な年代のアスリートの方と対談していると、環境が全く違うのが分かります。以前お話を伺った木村文子さんは専属の栄養士がついていたと話されていました。池谷さんはそのような時代を経験されて、現在は体操教室を運営・指導されていると伺いました。」

池谷幸雄

東京オリンピックメダリスト、村上茉愛選手も育てた
池谷幸雄体操倶楽部の厳しさのワケ

池谷:「そうですね。池谷幸雄体操倶楽部は全部で13校あるのですが、本校は小平になります。体を動かしながら基礎体力を向上させるだけでなく、年齢に応じて心を育むためのしつけにも力を入れています。」

佐野:「指導はかなり厳しいとお伺いました。」

池谷:「厳しいですね。なぜなら怪我をするリスクの高い競技だからです。私も現役時代多くの怪我をしてきたので、子供たちには気を抜かないよう口酸っぱく言っています。あとは厳しさ以上に体操競技というスポーツが大変だということです。辛いし痛いし毎日継続してやらなければいけないので、それを分かってもらうことも必要です。
競技で言うと年齢のピークが女子で18歳前後、男子では20歳前後になります。そこに照準を合わせるには、5歳くらいまでに筋力や柔軟性などの体づくりをしないとピークには到達できません。我々の競技は、特殊な環境に耐えられる身体と精神力を作らなければいけない難しさがありますね。」

佐野:「なるほど。厳しい競技だからこそ幼い世代からの指導が大切なのですね。
教え子には、東京オリンピック体操競技で種目別床運動で銅メダルを獲得した村上茉愛選手がいらっしゃいますよね。」

池谷:「そうですね。小学校時代から指導してきました。ただ彼女は小学校6年生から床の演技はほとんど内容が変わっていません。ずっと温めてきた演技を東京オリンピックでやってるのである意味ベテランになりますよね(笑)当時からずば抜けた能力をもっていましたし、彼女が小学校時代にやっていた演技を中学生が出来るかと言ったら数人しか出来ないレベルです。幼少期からそれができていたのでポテンシャルの塊でした。」

佐野:「やはりオリンピックでメダルを獲得する選手は幼少期から違うのですね。池谷さん自身も幼少期ご苦労されたんでしょうか?」

池谷:「僕は一般のクラスで4歳から習い始めました。当時体操教室は仮面ライダーの学校だと思っていたんですよ。昔から仮面ライダーになりたいと思っていたので、頑張って通っていればいつかなれると思っていました、それが始まりです(笑)
一般のクラスで、マット・跳び箱・鉄棒・トランポリン・縄跳びなどをやりながら週に3回ぐらいのペースで体操教室に通っていましたね。その後、本格的に体操競技を始めたのが小学校3年生の時。そこからは365日休みなく練習をしていました。なぜかというと、休みすぎてしまうと体が硬くなったり筋力が落ちる可能性があるからです。学生時代は夏から翌年の春まで長いオフシーズンがあるのですが、体力や筋力もパワーアップさせていく必要があるので、この時間をどれだけ充実させるかがポイントになります。」

佐野:「辛くてやめたいと思ったことはないですか?」

池谷:「小学校5年生の時にやめかけた事がありました。体操は嫌いではないけど毎日の練習が嫌になってしまって、バッグを持って出かけたものの教室に行かなかったことがあります。友達と遊ぶことが楽しくてその後一週間練習に行かなかったのですが、なぜかバレていないと思っていたんですよね(笑)
当然休んだ日に体操クラブから連絡が入るのですが、両親は一週間様子を見てくれました。結局待てど暮らせど行く気配がないので、しびれを切らして「一か月間休まず通ったらお小遣いをあげる」という提案をしてきました。僕は貪欲な人間なので、お金に釣られてまた行くようになったんです(笑)
ただ両親は僕の性格を見抜いてこの作戦を取りましたが、弟に同じことをやっても通用しなかったと思うんですよね。
よく親御さんにも、子供の性格にあった対応をしないと意味がないということを話します。」

池谷幸雄

指導者として池谷幸雄が大切にすること

佐野:「なるほど。池谷さんの場合はそのやり方が合っていたのですね。同じように対応するのではなく性格を見極めることも教育の中で必要なことなのですね。
体操倶楽部に通う子ども達は小さな子どもも多いと思いますが人間形成をするにあたって、重要視していることはなにかありますか?」

池谷:「まずは今ある環境に感謝をすることからスタートします。それ以外にも挨拶などの一般教養を始め、悪いことはしない、人を裏切るようなことはしないなど「人」として必要なことを徹底的に教え込みます。それが出来ない人間は体操をやる資格がないですからね。
有難いことに教え子達は凄く優秀で提携校からも褒めて頂く機会が多いです。
僕はたまたまメダルが取れましたけど、何が財産かと言うとメダルやオリンピック出場よりも体操競技を通して池谷幸雄を作ってくれた方達に出会えたことです。僕も技術だけでなく心の成長や人間形成を指導したい一心で体操教室を作りました。小学校の受験対策で来る方もいらっしゃるのですが、我々の教育方針がそのまま受験にも通用するそうなんですね。そういう意味でも役に立っていると思うと嬉しいですね。」

佐野:「教えることの難しさを感じたことはないですか?」

池谷:「子供に指導するのは難しいですね、大人とは違う生き物ですから。でも面白さとやりがいを常に感じていますよ。指導する上でのポイントが、なぜ?を教えてあげる事。なぜコーチの話を聞かなければいけないのか、なぜやらなければいけないのか。
理由をきちんと説明すれば子供は理解します。大人は頭ごなしに怒りがちですが、子供たちは知らないだけなので理由さえ分かれば納得し言うことを聞くようになります。子供の頭で理解できるように教えてあげることが大切ですね。」

佐野:「教育者というよりも指導者側に近い考えをお持ちなのですね。」

池谷:「僕は子供と似たような考えなんですよ(笑)
なので子供が楽しいこと、興味があること、喜ぶことは手に取るようにわかりますし、何を考えているのかも分かります。振り返れば自分自身もそうでしたし、子供の心が今も沢山残っているのは指導する上で有利ですね。」

池谷幸雄

現在の体操俱楽部での教育にも活かされる、
緊張とプレッシャーのコントロール

佐野:「子どもの心に寄り添った指導ができるのも体操倶楽部の人気の秘訣なのでしょうね。また、アスリートとして欠かせない現役時代のメンタルの保ち方を伺いたいのですが、元々緊張はしないタイプだったんですか?」

池谷:「緊張はしますが、それを力に変えられるタイプでした。よく考えると緊張やプレッシャーは自分自身で作り上げているものなんです。それに気付かされたのが高校生1年生の時。インターハイで食べ物が喉を通らなくなったことがありました。
なぜかと言うと出場選手の中では年下で体つきも違えば技術面での差もある。種目自体も4種目から6種目に増えプレッシャーもあったのだと思います。その時、平行棒で倒立をした時に倒れてしまったり、床に着地をした時にコロンと転がってしまったりと今までに経験したことのない大失敗をしました。 結果も7位に終わり、その時に考え方を改めました。
どんなに会場が広くても相手が凄い選手であろうと絶対に気にしないと。 そう思って高校選抜に出場したら3位に入りました。考えが報われた瞬間ですよね 。この考えはオリンピックが終わるまでずっと同じでした。 例え小さな大会であってもオリンピックであってもやることは変わらないので。
一方で緊張がゼロというのもダメだと思うんです。 ある程度の緊張状態を保ちながらしっかり体が動くという 体制に持って行くのがベストなので。それをまず自分で見つける事と、そこの考えに持っていくためにはどうしたらいいのか、経験を通して見つけなければいけません。」

佐野:「それは今お子さんを指導している中で、 そういうことを教えになられるんですか?」

池谷:「子供達もタイプによって違うんですよね。イヤホンをつけて音楽を聴いている子もいれば、会話したい子もいますから。どちらかといえば僕はみんなとコミュニケーションを取って、声援もしっかり送る。いつもと同じようにするのが良い緊張を保つ方法だと思っています。 平常心を保つには自信をつけるしかないので。 じゃあ自信をつけるためにはどうしたらいいかと言うと、ズバリ練習と経験しかありません。
100回やって10回成功する練習と 、10回やって9回成功する練習では後者の方が大事ですよね。その場その場での考え方や心の持ち方などが分かるようになってきます 。なので練習と経験をしっかり積んでいくと強い選手になれるんです。僕の場合は緊張とプレッシャーは高校1年生の時にわかりました。」

佐野:「メンタルについては自分の経験からコントロール方法を見つけていくことが必要なのですね。良い緊張を保つためには練習と経験で自信をつけるということは何事にも言えますね。またこのような経験から指導してくれる良い指導者に出会うという事が何よりも大切ですよね。本日はありがとうございました。」

池谷:「ありがとうございました。」

池谷幸雄

~まとめ~

高校生時代に出場されたソウルオリンピック、またバルセロナオリンピックでも団体、個人共にメダルを獲得されている池谷さん。まだアスリートの栄養管理や練習施設など整っていなかった時代にも関わらず、華々しい功績を残されたその裏側には、高校生で確立されたメンタルコントロールや、幼少期時代からの厳しい練習があってのものでした。
またアスリート時代の経験を活かした体操倶楽部での指導方法もとても納得させられるものでした。

池谷さんによる子どもに寄り添った指導法に現代の栄養管理、健康管理が加わるとさらに期待できるアスリートが生まれるのではないかと感じました。

佐野理事 和田奈美佳 池谷幸雄

次回はロンドンオリンピック卓球団体銀メダリストの平野早矢香さんとの対談を行います。

コーディネーター・文責 / 和田奈美佳

コーディネーター・文責 / 和田奈美佳

フリーキャスター。
健康管理士、健康管理能力検定1級、日本成人病予防協会認定講師。