未来へつなぐ健康対談

アスリートと考える健康管理 Vol.5
平野早矢香 × 健康

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会では健康社会の実現に向け日々さまざまな活動を行っております。皆様の病気予防・健康管理への意識・興味を高めていただくために、今回さまざまな分野のアスリートの方々と健康管理について考える対談をシリーズ化して皆様にお届けすることとなりました。

第5弾は、2008年北京オリンピック団体戦4位、2012年ロンドンオリンピックは福原愛、石川佳純両選手と団体戦で銀メダルを獲得。引退後はミキハウススポーツクラブアドバイザーとして、スポーツキャスター、講演、卓球講習等で活動されている平野早矢香さんをお招きして「アスリートと考える健康管理 Vol.5」をテーマに対談を行いました。

平野早矢香

平野早矢香

平野早矢香

1985 年 3 月 24 日生まれ。栃木県出身。
5 歳で卓球を始め、仙台育英学園秀光中学校
仙台育英学園高等学校に進学。卒業後ミキハウスに入社。

18 歳で全日本卓球選手権・女子シングルス初優勝。その後 2007 年度から全日本選手権を 3 連覇達成。
通算 5 度の日本一に輝く。
そしてオリンピックでは 2008 年北京にて、団体戦 4 位。
2012 年ロンドンでは福原愛、石川佳純両選手とともに団体戦で銀メダルを獲得。男女通じて日本卓球史上初の五輪メダリストとなった。世界選手権 14 大会に出場し、2014 年東京大会では団体戦にて銀メダルを獲得。
2016 年 4 月の日本リーグ・ビッグトーナメントにて現役引退。

現在は、ミキハウススポーツクラブアドバイザーとして後進の指導に務める傍ら、全国にて講習会、講演会、解説など、そしてスポーツキャスターとしても更なる卓球の普及のため、幅広く活動している

profile
佐野虎

佐野虎

佐野虎

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 理事長
『健康社会の実現』のために、予防医学・健康管理の知識と意識の普及活動を行う団体。
官庁・自治体・企業 などと連携した『健康セミナー』の実施、小学校と連携した『食育』活動にも注力。
正しい健康知識を普及する人材、『健康管理士』 『文部科学省後援 健康管理能力検定』の認定も行う。

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卓球界の火付け役!最強チームで戦った平野早矢香の現役時代
「昨日の自分に今日の自分は勝つ」

佐野:「よろしくお願いします。オリンピックのご活躍はテレビで拝見しておりました。」

平野:「ありがとうございます。私は2008年北京オリンピックと2012年ロンドンオリンピックに出場したのですが、北京からシングルスと団体戦の種目に変わりました。
卓球大国である中国は実力が飛び抜けていたので、団体戦の種目に変更になったことにより日本チームの良さを発揮できるようになりましたし、メダルに向けてチャンスがきたなという気持ちでした。北京の時は悔しい思いをしたので、ロンドンでは絶対にメダルを獲ると死に物狂いでやりましたね。」

佐野:「卓球界の火付け役ですよね。ロンドンオリンピックの福原愛さん、石川佳純さんとのチームは最強だったと思います。」

平野「2人がアイドル的な存在だったので注目度は高かったと思います。福原選手は幼少期から注目されていましたし、石川選手も愛ちゃん2世と言われていました。年齢は4歳ずつ離れていて、当時私と福原選手はオリンピックを経験していて石川選手は初めて。戦い方含めバランスが取れていたように感じます。やはり一つの競技が発展していく過程において、注目される選手がいることプラス日本人選手の実績、この二つは重要になってくると思います。
当時中国の選手から1ゲーム取ることも大変だったんですよ。私たちがメダルをとったことで日本人選手でもメダルを取れると思えるようになったのは大きいですね。」

佐野:「年齢差や経験値、注目度などが相まってバランスがとれたチームだったからこその銀メダル獲得だったのですね。以前平野さんの記事を拝見したことがありますが、印象的だったのが昨日の自分に今日の自分は勝つというお言葉です。」

平野:「代表に選ばれる選手は天才的な方が多いのですが、私自身は不器用でどんなことを習得するにも時間のかかるタイプでした。周りの選手と比べては情けないなと思うことが多かったので、昨日の自分と今日の自分を比較して成長しようという考えに変えました。結果的にその考えはよかったと思っています。」

佐野:「その言葉は私にも響きました。なかなか言えるようで言えない言葉ですよね。また、平野さんは周りに流されないタイプだと聞きました。27歳まで部屋にテレビがなかったとか(笑)」

平野:「それは本当ですね(笑)当時ストイックな生活をしていたので、芸能人の名前はもちろんドラマなどのタイトルを聞いても分からないことが多かったです。
極端な性格なので興味があることは徹底的に調べるのですが、興味がないことはいくら周りからつつかれても響かないですね。ちなみに引退して一番困ったことは私服がなかったこと。毎日ジャージを着ていた生活だったので私服をあわてて購入しました。」

対談の様子

強くなかったメンタルは「続ける」を強化した!

佐野:「一つのことを極められているだけあって、プライベートでは極端な一面もあるのですね。
アスリート時代、メンタルのコントロールはどうされてましたか?わたしの勝手な考えですが、トップアスリートとしてご活躍されている方はメンタルが強いと勝手に思い込んでおります。」

平野:「全然強くないですね(笑)そもそもメンタルは何をもって強いと言えるかなのですが、スポーツ界においてもメンタルの分野は人それぞれ捉え方が違います。例えば卓球の技術面では、技ごとの評価やデータの数値化により明確になるのですが、メンタルにおいては複雑にいろいろな要素が絡み合っているので表現が難しくなります。
私自身でいうと、緊張しやすくリスクを負ったプレーはあまり得意としない。伊藤美誠選手のようなミスを怖がらずに攻めていけるというタイプではありません。
一方で「続ける」というメンタル要素は苦にならなかったですね。長時間の練習も嫌だなと思ったことはありませんでした。プレーで言えばメンタルが弱い分自分の心を一定に保つ工夫をしていましたし、安定感という意味では他の選手に比べて優れていたと思います。目標としている世界で勝つためにはどうしたら良いのか、本当に試行錯誤し続けました。」

佐野:「ご自身のメンタルに関する分析をされて自分が得意とする「続ける」というメンタルを強化されたのですね。
緊張しやすいタイプとのことですが、オリンピックも含め試合ではどのようにコントロールされましたか?」

平野:「私は試合に入る前までのメンタルに一番波がありました。時間をかけて試合モードに気持ちを高めていきたかったので、本番一週間前から一人の時間を作り外部との交流を遮断していました。 あとは緊張を心や頭でコントロールするのではなく体でコントロールするようにしていましたね。
例えば緊張して肩に力が入ってしまった時、肩の力が抜けるように意識を向けるとさらに力みが出ます。実は北京オリンピックの初戦、私は前半リードしたにもかかわらず緊張で手が震えてしまいました。 止まれと思えば思うほど意識が向いてしまったので、震えてもミスをしなければいいという考えに変えました。
あとは経験を積む中で見出したのは足裏の感覚。体の中から床を押している感覚が高まると体幹も安定しどしっと構えられて心も落ち着くので、そういう所を細かく調整していました。」

佐野:「心や頭ではコントロールすることが出来ない緊張感があるオリンピックはそれだけ特別な舞台ということなんですね。足裏の感覚まで調整していたとは驚きです。」

平野:「やはり大会に入る前からの注目度も違いますし、選手村に入るとより日本代表の意識が高まりました。また対戦相手も 四年かけて試合に挑んでいるので時間のかけ方も全然違います。
北京オリンピックが終わって感じたのは、技術だけでなくメンタルの習慣も含めて良いところも悪いところも全部出てしまうのがオリンピックだなと。ロンドンオリンピックに向けてはメダルを取ることだけを考えた4年間でした。 朝から晩まで練習して日付が変わることも多かったですね。」

ストイックなアスリート生活の中での体調管理法は食事管理と環境適応能力だった?!

佐野:「日付が変わるまでの練習もあったんですね。ストイックがゆえに体調を崩すことはなかったのでしょうか?当然アスリートの方は体調管理をしっかりされていると思いますが。」

平野:「今思うと本当に体に悪いことをしていたなと思います。 ドーピングの関係で飲める薬が限られているので、日頃の生活はもちろん早い段階で身体の異変を感じられるかが重要になります。1回体調を崩してしまうと飲めない薬がある分回復も遅くなるのでかなり気をつけていましたね。 幸いにも私は体が強い方で、ハードな練習をしてもどこかを痛めたり怪我をすることは少なかったですね。当然体調を崩すことはありましたが(笑)」

佐野:「なるほど。ハードな練習をしながら自分の身体の状況は常に把握しておかなければならないのですね。ちなみに、体調を崩したときはどういう状況だったのでしょうか?」

平野:「遠征の前日に39 度の熱が出てしまって。ブラジルでの遠征だったのでその日の夜に点滴を打ち現地へと向かいました。あとは腹痛に耐えながら試合に出たり、ぎっくり腰のような症状が出て練習が出来ない状態で試合に臨んで優勝したり(笑)やはり毎日体を痛めつけているので、どうしても疲れや痛みは出てしまいます。ただ悲鳴をあげたからといって休めない状況でもあるんですよね。
長い人生で見れば良くないのですが、アスリートは結果が全てなのでそこで爪痕を残さなければどういう状況であっても評価はされないし自分自身も納得が出来ない。体と心両方で引っ張り上げたという感じですね。落ち込んでいる時は体の強さをベースに練習量をこなして気持ちを引っ張り上げますし、体調が良くないけど戦わなければいけない 時の気持ちで体を引っ張り上げていました。」

佐野:「体調が悪いときは心で、気持ちが落ち込んでいるときは身体で、とは本当にアスリートの方は強いですね。またアスリートの方はどこかが悪い時、すぐに薬が飲めない辛さもありますよね。」

平野:「そうですね。ドーピングに引っかからない薬を常に調べて持っていました。大きな大会の時は帯同してくださるドクターがいるので安心なのですが、当然ドクターが派遣されない大会もあります。日本でドーピングにひっかからない薬と言われ処方されても、自分で必ず協会のドクターに確認をしていました。なので引退をして薬を飲むときに少し抵抗がありましたね。(笑)今思うとそれは大きなストレスだったと思います。」

佐野:「ドーピングに引っかかれないというストレスも抱えながら薬一つにもこだわって生活をするアスリートはやはり違いますね。 それだけ自分を追い込めるんですよね。」

平野:「かなり追い込んでいましたね。 今は気持ちの面でも楽しく暮らしています。(笑)」

佐野:「現役時代、食事などは気をつけていらっしゃったんですか?」

平野:「わたしはアトピー持ちなので、その辺りは神経を使いました。人生で2度練習を休む程ひどくなったことがあります。食べ物でのアレルギーではなかったのですが、食事は特に意識をしていましたね。 例えば飲み物ひとつにしても、練習の時に飲むものと試合の時に飲むものを変えていました。栄養に関する基礎知識は教えていただいたのですが、基本的には自己管理になります。海外遠征時は、現地の食べ物だけでなく必要な食料を持って行っていましたね。嫌いな食べ物もないので、中国に行けば蛇や昆虫も食べましたし、シンガポールではカエルも食べました。(笑)」

佐野:「海外遠征も多くなると、アスリートの方も基本的に自己管理になりますよね。遠征時はその環境に馴染めるかどうかが大きいですね。蛇や昆虫、カエルまで食べていたとは驚きです。」

平野:「それは大きいですね。私は基本的にどこでも寝られます。例えばブラジル遠征だと日本からブラジルまで経由地含めずっと寝られるんですよ。周りのスタッフに心配されるほどですね。(笑)私の感覚では当たり前だったのですが、色々な選手を見たり話を聞くとアスリートの能力としてはすごいのかなと思います。」

佐野:「そうなんですね。このアスリート対談で、元体操選手の池谷幸雄さんも同じことを仰っていました。やはりトップアスリートの方は休む能力にも優れているのかもしれないですね。全世界、遠征したのですか?」

平野:「現役時代は39か国行きました。ブラジル・チリ・カタール・クウェート・モロッコ・エジプトなどにも行かせていただきましたね。
一番大変だったのはインド。食事の面では炊飯器から食べ物まで全て持って行ったのですが、さすがに朝ごはんは大丈夫だろうということでレストランに行きました。ただ目の前に出てきた料理が不思議な色だったんです(笑)一口食べてみたのですがだめで、そのあとはずっと部屋でごはんを食べていましたね。」

佐野:「さすがに合わないところもあったのですね。炊飯器まで持っていかれるとは、それだけの国に行くとなるといろんなことを想定して準備していらっしゃりますね。」

平野:「荷物が重くなるタイプです(笑)いつも飛行機の超過料金との戦いですね。男子選手を捕まえて、これを荷物に入れてくれない?といつも交渉していました(笑)」

対談の様子

現役引退後の糖質制限で不健康に?!正しく健康を知った現在

佐野:「そうでもしないと、炊飯器まで持っていけないですよね。現役生活を終えられて現在はご主人の健康面も含め健康に対する意識はどうですか?」

平野:「2016年に引退して体重が増えたときに糖質制限とトレーニングをしました。三カ月半お米はもちろんじゃがいもすら食べないというストイックな生活をしたんです。おかげで体重は減ったのですが髪がばさばさになり肌ツヤも一気に悪くなりました。げっそり不健康になったんですよね。
その後反省を生かして、ジムに通ったりウォーキングを取り入れたりバランスの良い食事でコントロールするようになりました。」

佐野:「じゃがいもすら食べないとはアスリートだからこそのストイックさですね。意外と知られていませんが、厳密にいえば野菜の食物繊維も糖質なんですよね。食物繊維は腸内環境を良くしてくれ痩せ体質を作ってくれますしそもそも糖質を食べないと、タンパク質を糖に変えるのでタンパク質の本来の働きができなくなってしまいます。」

平野:「もともと食いしん坊なのでめちゃくちゃ我慢してやっていたのですが、体調を崩したので違うなと思いやめました。一生糖質制限しないと誓いましたね。(笑)ただ何事も経験してみないと自分に合うかどうかはわからないですよね。ハードに運動した方がいい方もいれば食事でコントロールする人もいる、いろいろな方法があります。」

佐野:「激しくやりすぎたダイエットは瞬間的には成功するんですけど、反動で元に戻る方も多いですよね。」

平野:「継続できるプランニングをしていかないといけないなと思います。現役時代は腹筋500回も苦痛ではなかったのですが、目標なく1日100回腹筋しなさいと言われても出来ないんですよ。ただ現役の頃の習慣がいまも残っていて、食事のバランスはかなり気を付けていますね。普段汁物は必ず付けるようにしています。夫も健康オタクで食事に関しての理解があるので良かったです。」

佐野:「腹筋500回が苦痛でなかったのはさすがアスリートですね。強い目標があるからこそですよね。アスリートほどの強い目標がない場合、まずは健康管理の大切さを知らなくてはなりませんが、旦那さんも健康に興味がおありとは素敵なご関係ですね。」

平野:「凝り性なので困ることもあります(笑)例えば高級なオリーブオイルを買ってきたり、納豆やお味噌汁に亜麻仁油を入れるのが良いということを知ってからかけるようになったり。毎朝スムージーを作ってた人なので、女子より女子力高いですよね。でも私から見るとタンパク質が足りていない食事なので、アドバイスをしたりします。」

佐野:「良い油をしっかり取り入れていらっしゃるんですね。朝からスムージーも理想的です。もちろんタンパク質こそ必要な栄養素ですからね。食事の回数は1日3回ですよね。365日で換算すると1000回ありますから、何も考えずに適当な物を1000回食べるのと、少しだけ気をつけてお食事するだけでその後が全然変わってきます。小さな積み重ねが健康に導かれていきますから。」

平野:「私はアスリートとして栄養学を学ぶ機会があったり、睡眠など体を整えるという事に関して意識も向いていたと思うんですね。そしてコロナ禍において考えさせられたのがやはり健康が一番だなと。
健康あってこそなんでも出来る。さまざまな知識を持ち最後何を選択するかだと思います。」

佐野:「多くの方が健康で当たり前と思っているので、体調を崩して初めて気がつかれる方が多いんですよね。ただ体調を崩した時にはすでに病気が進行しているという方も多いのが事実です。
アスリートの方に共通しているのがきちんと自己管理ができていて健康に配慮していてご自身のポリシーの中でやっていく。一般の方でも普段意識している方であれば体型も維持されていたり、素敵な方が多いですよね。本日は貴重な話をありがとうございました。」

平野:「ありがとうございました。」

~まとめ~

北京オリンピック卓球団体4位、ロンドンオリンピックでは団体銀メダルを獲得され卓球界の火付け役ともなった平野さん。ストイックな性格の裏には緊張しやすい一面をアスリートらしいメンタルコントロールで乗り越えられてきたり、海外の様々な環境にも対応されてきたりとアスリート時代を知ることができました。
引退後の自身の間違ったダイエット法からも食生活を見直し、現在も健康を意識した生活を送られているということでやはり正しい健康知識を持つことで本当の健康管理ができるのだと感じました。

佐野理事 平野早矢香 和田奈美佳

コーディネーター・文責 / 和田奈美佳

コーディネーター・文責 / 和田奈美佳

フリーキャスター。
健康管理士、健康管理能力検定1級、日本成人病予防協会認定講師。