生活習慣病を予防する特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
皆さんは、人が一日に何回呼吸するか知っていますか?答えは、なんと「2万回から2万5000回」。
このように、私たちは普段何の意識もせずに呼吸をしていますが、「呼吸」には心身をリフレッシュさせたり、ダイエット効果があったり、便秘が改善したりと嬉しい効果がたくさんあります。
呼吸のやり方ひとつで、心身の健康が大きく変わります。正しい呼吸法を身につけてストレスを解消させ、健康な身体を手に入れましょう!
良い呼吸とは、酸素を十分に取り入れて二酸化炭素をきちんと排出できる深い呼吸のことをいいます。浅く短い呼吸が続くと、脳が酸素不足になったり、気分が落ち込んだりしてしまいますが、深い呼吸をすることで、それらを改善するだけでなく、健康にさまざまな良い影響を与えてくれます。
この記事では、意識して変えることができる、腹式呼吸と胸式呼吸、鼻呼吸と口呼吸について説明します。
主に、肺の下にある「横隔膜」という筋肉を下に押し下げることで「お腹を膨らませる」深い呼吸
肋間筋などを使って肋骨を広げ、「胸を膨らませる」浅い呼吸
走った後などに肩が上下するような大きい呼吸は、胸式呼吸に入ります。
●酸素不足
私たちは、呼吸をすることで全身に酸素を送っていますが、呼吸が浅くなってしまうと、肺の機能を十分に使うことができないため、適切な量の酸素を得ることができず血液中の酸素も不足してしまいます。特に脳は、全身で消費する量の20%もの酸素を必要とするため、慢性的に不足しやすい傾向にあります。
●高血圧や心臓病のリスクが高まる
自律神経には、活動時やストレスを受けた時に働く交感神経と、睡眠時やリラックス時に働く副交感神経があります。浅い呼吸は、交感神経を働かせる(優位にする)ため、血管が収縮して血圧が上昇したり、心拍数が上がったりします。その結果、高血圧や心臓病のリスクが高まります。
●精神的に不安定になりやすい
ストレスを感じている時は呼吸が浅くなりやすく、呼吸が浅くなることで脳への酸素供給量も少なくなってしまいます。その結果、精神状態に悪影響を及ぼし、ストレスをますます増幅させてしまいます。
そのほか、「夜間も覚醒状態が続く」「消化が抑制される」「脳血管が収縮する」「睡眠障害」「胃痛」「便秘」「頭痛」などが起こります。
腹式呼吸は、横隔膜を下に下げることで、胸が広がり、普段あまり使わない肺の下部まで酸素を取り込むことができます。そのため、身体のすみずみまで酸素を届けることができ、慢性的な酸素不足が解消されます。
副交感神経が刺激されるため、血管が拡張して血圧が下降したり、心拍数が下がったり、消化が促進されたりします。そのため、身体がリラックス状態になります。
横隔膜はインナーマッスルのなかでも、コアマッスルと呼ばれる筋肉で、関節や骨の安定性を高めて内臓を正しい位置にとどめてくれる働きがあります。そのため、体幹が良くなって肩こりや腰痛が改善します。
横隔膜(コアマッスル)を鍛えられるので、基礎代謝が向上します。また、たくさんの酸素を取り込むことで血行が促進されて体温が上がるため、冷え性が改善され、こちらも基礎代謝の向上につながります。そのため、痩せやすい身体を手に入れることができます。
消化器官は、副交感神経が働くことで活発になるため、便意が起こりやすくなります。また、腹筋や横隔膜を刺激すると腹腔内の圧力が高まり、排便をサポートしてくれます。
腹式呼吸に慣れていない人が、いきなりたくさん腹式呼吸をするとクラクラしてしまうこともあるので、無理のない範囲で行いましょう。
仰向けに寝転んで、ゆっくりと口から息を吐きます。
体の中の空気を全て外に出すつもりで、時間をかけて吐きましょう。
この時、お腹が徐々に引っ込むように気をつけます。
鼻から深く息を吸います。舌は上顎につけるようにすると良いでしょう。
この時、下腹を膨らませるようにお腹を動かしましょう。
この動作・呼吸を繰り返します。慣れてきたら、息を吐く時間を吸う時間の3~4倍くらい長くできるようにしていきましょう。
このように、腹式呼吸にはさまざまな効果がありますが、走った後などたくさんの酸素をすぐに取り入れる必要がある場合には、胸式呼吸の方が適しています。常に腹式呼吸をするのではなく、それぞれを使い分けられるようになりましょう。
私たちは、鼻と口のどちらかを使って呼吸していますが、もともとは鼻呼吸しかできませんでした。進化の過程で、会話ができるようになると同時に口呼吸もできるようになったといわれています。そのため、人間以外の動物はすべて鼻呼吸であり、人間にとっても鼻呼吸が最も自然な呼吸法といえます。なぜなら、鼻には吸った空気を浄化する機能が備わっているからです。鼻呼吸は、空気中のほこりを取り、乾燥した空気を適度な湿度にして、喉や肺にとって刺激の少ない空気にしてくれるのです。
あなたは口呼吸をしていないですか?
下のチェック項目で3つ以上当てはまると、口呼吸をしている可能性も…
口は、もともと食事をするためだけの器官で、空気を浄化する機能はありません。そのため、細菌やウィルスを含んだ空気が口から直接体内に取り込まれることで、風邪を引きやすくなります。また、口呼吸は、口腔内が乾燥しやすくなるため、口臭や虫歯、歯周病のリスクが高くなったります。また、顔の筋肉が弱くなって口が開きやすくなることで、歯並びが悪くなったり、顔がたるんだりして美容にも影響します。鼻呼吸と比べて、取り入れられる酸素の量が少ないため、睡眠の質も低下し、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高くなるほか、いびきもかきやすくなります。このように口呼吸の弊害はさまざまです。
鼻呼吸をすると、口呼吸に比べて口腔内の乾燥を防ぐことができるため、口臭や虫歯、歯周病になりにくくなったり、ウイルスの侵入を防ぐことで風邪を引きにくくなったりします。また、睡眠の質向上にもつながります。
口呼吸の人は、顔の筋肉が弱いことが多いので、ガムを噛んだり、「あいうべ体操」をしたりして顔の筋肉を鍛えることが効果的です。
~あいうべ体操のやり方~
「あ~」と大きく口を開けて、1秒キープします。
「い~」と大きく口を横に開いて、1秒キープします。
「べ~」と舌を出して、下顎につけるように伸ばし、1秒キープします。
①~④を1セットとして、1日30セット行うと効果的です。滑舌が良くなったり、顔のたるみやしわが改善したりする効果があるので、ぜひやってみてください。
※人によっては、鼻の空気の通り道が狭いことで口呼吸になっている人もいます。鼻が詰まりやすい人や、鼻呼吸だと苦しいと感じる人は、無理せず耳鼻咽喉科で相談しましょう。
最後に、腹式呼吸と鼻呼吸を使ったリラクゼーション法「マインドフルネス」をご紹介します。マインドフルネスとは、「今この瞬間」に意識を向けて、自分の状態を評価せず、ただ観察することを意味しています。もともとは仏教の瞑想の考え方ですが、マサチューセッツ大学のジョン・カバットジン博士が医療のため取り入れたことで、現在ではスポーツやビジネスの分野でも採用されています。
~【初心者向け】マインドフルネスのやり方~
雑念が浮かんでも、それを責める必要はありません。過去のことなどがあれこれ気になったとしても、「また考えていたな」と今の自分の状態を受け止めて、また呼吸に意識を向け直すようにしましょう。そうすると次第に、心がスッキリするような感覚になります。
いかがでしたか?普段何気なく行っている呼吸ですが、呼吸法によってさまざまな違いがあることを分かっていただけたかと思います。心身の健康を保つために、少しずつでも日常生活に取り入れていきましょう。
来月のテーマは、「笑う ~ストレス解消法~」です。