健康管理情報

腹痛の原因【考えられる病気を部位別に紹介・注意すべき痛み方とは】

2000年7月号
更新)
気になるからだの危険信号

お腹が痛む原因には、いろいろなものが挙げられますが、「器質異常による痛み」と「機能異常による痛み」に分類できます。

器質異常による痛み

内臓の組織に異常があることで起こる痛みです。例えば、胃痛のため検査をしたら、胃の壁に潰瘍ができていて胃潰瘍と診断されるような場合です。腹痛の多くが、この「器質異常による痛み」にあたります。

機能異常による痛み

内臓の臓器自体に異常はないものの、内臓の働きがおかしくなることで起こる痛みです。例えば、精神的なストレスによって胃が痛む場合、胃そのものには異常がないため、胃の検査をしても何の問題も見つかりません。

 

機能異常による痛み

代表的な病気が、「過敏性腸症候群」です。
過敏性腸症候群とは、腸(または消化管)には異常が見られないのに、何らかの精神的ストレスが加わって腸の働きが不調になり、下痢や便秘がといった症状が慢性的に起こることをいいます。主な症状である、腹痛や便通異常のほかに、吐き気や嘔吐、食欲不振といった消化器症状や、頭痛、疲労感、不眠、不安や抑うつなどの症状が現れることもあります。症状には男女差があり、男性は下痢型が多く、女性は便秘型が多い傾向にあります。また、不安を感じやすく緊張しやすい人がこの病気になりやすいといわれています。

過敏性腸症候群発症者を年代別に分けると以下のような結果が得られました。

年代別

(Therapeutic Research vol.14 no.11 1993)

過敏性腸症候群発症者を性格別に分けると以下のような結果が得られました。

性格別

(Therapeutic Research vol.14 no.11 1993)
過敏性腸症候群の腸症状
症状 割合
腹痛 54.3%
  • 便通異常/
    •   下痢型
    •   便秘型
    •   交換型
  • 64.0%
    • 30.3%
    • 23.4%
    • 10.3%
腹部膨満型 6.3%
腹部不快型 28.0%
残便感 4.3%
ガス症状 5.1%
鳴腹 1.7%

(複数回答あり)

過敏性腸症候群の腸症状以外の症状
症状 割合
  • 消化器関連/
    •   吐き気・嘔吐
    •   食欲不振
    •   食道狭窄感
    •   その他
  • (49%)
    • 20%
    • 20%
    • 3%
    • 6%
  • 全身性身体症状/
    •  ・神経・筋系
      •    頭痛・頭重感
      •    めまい感
      •    背部痛
      •    肩こり
      •    腰痛
      •    その他
    •  ・循環器症状
      •    動悸
    •  ・その他
      •    疲れやすい
      •    その他
    •  
    • (40%)
      • 15%
      • 6%
      • 6%
      • 5%
      • 4%
      • 4%
    • (3%)
      • 3%
    • (30%)
      • 21%
      • 9%
  • 精神症状
    •   不眠
    •   不安感
    •   その他
  • (30%)
    • 21%
    • 5%
    • 4%

(複数回答あり)

※過敏性腸症候群とよく似た症状に、「乳糖不耐症」があります。乳糖不耐症は病気というより体質に近く、牛乳などの乳製品に含まれる乳糖を分解する酵素ラクターゼが少なかったり、働きが弱まったりしていることで、乳糖を消化吸収できず、腹痛や下痢が起こります。そのため、牛乳などの乳製品を摂らなければ、症状は現れません。過敏性腸症候群とよく似た症状があっても、牛乳を飲むとお腹を壊す人は、乳糖不耐症の可能性が高いと考えられます。

過敏性腸症候群の治療法

過敏性腸症候群の治療は、整腸剤や痛み止めなどの薬物療法のほか、症状によっては心理療法なども行いますが、食生活などの生活習慣を改善することが最も重要とされています。
生活習慣については、以下のことに気をつけましょう。

避けるべきこと
  • 暴飲暴食
  • 冷たい飲み物、アルコール、たばこ、香辛料などの刺激物
  • 病気について心配しすぎること
守るべきこと
  • 規則正しい生活
  • 十分な睡眠と適度な運動
  • 深刻に考えすぎず、気を楽に保つ
食事療法「低FODMAP食」とは

近年、低FODMAP(フォドマップ)食という食事療法が注目されています。とは、小腸で消化吸収されず、大腸で発酵する糖質の総称で、それぞれの頭文字を取った用語です。

  • Fermentable  :発酵性の
  • Oligosaccharides:オリゴ糖(小麦、豆類、玉ねぎ、ごぼう、納豆など)
  • Disaccharides  :二糖類(牛乳、ヨーグルト、クリームチーズなど)
  • Monosaccharides:単糖類(りんご、すいか、はちみつなど)
  • AND
  • Polyols     :ポリオール(きのこ類、カリフラワー、ももなど)

低FODMAP食とは、FODMAPを多く含む食品を控えてお腹の不調を改善する食事療法です。
消化器症状の改善に効果があるという研究結果もありますが、全ての人に当てはまるわけではありません。
体質によっては逆効果になってしまうこともありますので、医師による治療を優先し補助的に行うとよいでしょう。

 

分類 低FODMAP食品
穀類 米、十割そば、オートミール、キヌア、タピオカ、タコス、ポップコーン
野菜・いも類 トマト、ブロッコリー、キャベツ、にんじん、ほうれん草、じゃがいも
果物 いちご、ブルーベリー、(未熟)バナナ、キウイ、レモン、みかん
乳製品 バター、マーガリン、モッツアレラチーズ、カマンベールチーズ
その他 肉類、魚介類、卵、木綿豆腐、油揚げ、こんにゃく、味噌、メープルシロップ

 

器質異常による痛み

腹痛の場合、痛む部位と病気を起こしている臓器の間には密接な関係があるため、痛む部位が重要となります。そのほかに、「どのような痛みなのか」、「いつ痛むのか」によって考えられる病気が異なります。

上腹部(みぞおち)が痛む場合
疑わしい病気 痛みの特徴・そのほかの症状
胃炎 ・食後に不快感や胃もたれ。
・吐き気、食欲不振、胸やけ、腹部膨満感、倦怠感等の症状もみられる。
胃潰瘍 ・食後30分~1時間で痛みが強くなる。
・吐血、下血、胸やけ、げっぷ等の症状もみられる。
胃がん ・進行すると痛みが激しくなる。
・胸やけ、げっぷ、食欲不振、嘔吐(吐血)、血便、腹水等の症状もみられる。
急性膵炎 ・突然痛みが起こる。
・あおむけに寝ると痛みが強くなる。
・左背、左肩、左手まで痛みが広がる。
・発熱、食欲不振、吐き気、嘔吐等の症状もみられる。
虫垂炎(初期) ・時間とともに強くなる。
・吐き気、嘔吐等の症状もみられる。

※そのほか、狭心症や心筋梗塞の胸痛が腹部に広がって痛むこともあります。

右上腹部が痛む場合
疑わしい病気 痛み方
胆石症 ・過食(特に脂肪の多いもの)後、2時間くらいで痛みが出る。
・激痛。
・右背、右肩、右腕まで痛みが広がる。
・吐き気、嘔吐、黄疸等の症状もみられる。
胆嚢炎 ・初期は上腹部に不快感や鈍痛がみられる。
・進行すると上腹部から右わきまでが強く痛み、重症化すると激痛になる。
・発熱、吐き気や嘔吐、黄疸等の症状もみられる。
右下腹部が痛む場合
疑わしい病気 痛み方
虫垂炎 ・痛い部位を押すと痛みが増したり、押した手を離した瞬間に強く痛んだりする。
・時間とともに痛みが強くなる。
・体を動かすと痛みがひどくなる。
・発熱、下痢、便秘、食欲不振、吐き気、嘔吐等の症状もみられる。
卵管炎・卵巣炎 ・下腹部を押すと強く痛む。
・痛みの程度は、人によって鈍痛から激痛までさまざま。
・不規則な出血や黄色い膿の混ざったおりものを伴うことがある。
・発熱、悪寒、嘔吐、腹部膨満感等の症状もみられる。
左上腹部が痛む場合
疑わしい病気 痛み方
慢性膵炎 ・アルコールや脂肪の多い食事の数時間後に痛みが現れる。
・へその左右や背部まで痛みが広がることもある。
・ときどき痛むこともあれば、鈍痛が続くこともある。
・吐き気や嘔吐、下痢、倦怠感等の症状もみられる。
膵臓がん ・食事と関係なく、左上腹部や左背が強く痛む。
・あおむけに寝ると痛みが強くなり、膝をかかえる姿勢をするとやわらぐ。
・特徴的な症状は、糖尿病の発症(1年未満)や悪化、黄疸。
・体重減少、食欲不振、倦怠感、吐き気、嘔吐、下痢、便秘等の症状もみられる。
左下腹部が痛む場合
疑わしい病気 痛み方
潰瘍性大腸炎 ・症状の悪い時期と落ち着く時期を繰り返す。
・粘血便、血便、下痢、発熱、頻脈、貧血、倦怠感等の症状もみられる。
下腹部が痛む場合
疑わしい病気 痛み方
膀胱炎 ・下腹部に、違和感や鈍痛がある。
・頻尿、排尿痛、血尿、残尿感等の症状もみられる。
子宮内膜症・子宮筋腫

・主な症状は月経痛で、便秘等の症状もみられる。
・進行すると月経以外のときにも、下腹部痛や腰痛がみられる。

腹部全体が痛む場合
疑わしい病気 痛み方
腹膜炎 ・急激な腹痛が突発的に起こり、痛みが持続する。
・歩くと響いて痛い。
・腹部がかたくなり、押すと強く痛む。
・発熱や嘔吐、冷や汗、チアノーゼ、意識混濁等の症状もみられる。
腸閉塞 ・周期的に痛んだり治まったりするが、一定時間経つと激しい痛みが持続する。
・吐き気、嘔吐、腹部膨満感、便・尿量の減少が起こる。
・発熱、頻脈、意識障害等の症状もみられる。
注意すべき痛み方
緊急の治療が必要な場合

今までに経験したことのないような激しい痛みを感じたとき。
血便や吐血を伴うとき。
立ったり座ったり、歩いたりするなどの動作によって、痛みが増すとき。
発熱やめまいなどの全身症状があるとき。

治療が必要な場合

痛みが数日にわたっていて、次第に激しくなるとき。
背中にも痛みがあるとき。
痛みが、みぞおちの辺りから、(右)下腹部に移動しているとき。

検査が必要な場合

一定の痛みが持続している、もしくは断続的に起こるとき。
常に同じ部位が痛むとき。
食事と痛みが関係しているとき。

 

今回ご紹介した腹痛の要因となる病気はどれも、人によって症状の有無や、痛みの程度もさまざまです。そのため、不安を感じたときや、数日経っても痛みが続く場合は、早めに病院へ行くようにしましょう。

来月のテーマは、「背痛 -気になるからだの危険信号 痛み-」です。

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